アイガイオン経済圏に居住する者へ付与される、経済活動への参加状態を示す行政資格。
通称 EPS。
就業状況だけを示すものではなく、
- 居住
- 医療
- 交通
- 給水
- 教育
- 通信
- 各種施設へのアクセス
- 再訓練・再配置制度
など、アイガイオンにおける社会サービス全般と連動している。
したがってEPSは、事実上、
「この都市が、あなたへどの程度の資源を割り当てるか」
を決定する基礎資格である。
ただし制度上は「人間の価値を測定する制度」ではないと説明されている。
公式には、
「限られた都市資源を、持続可能かつ公平に配分するための参加状態管理制度」
とされる。
基本思想
EPSの根本原則は単純である。
生きているから席があるのではない。
機能しているから席がある。
ただし「機能」とは、単純な労働能力だけを意味しない。
例えば、
高齢者が若年者を教育する。
障害を持つ者が遠隔業務へ転換する。
療養中の者が復職訓練を受ける。
育児中の者が将来的な経済参加を維持する。
こうした状態も「経済参加」として認められる。
そのため、アイガイオンは表面的には非常に包摂的である。
問題は、
支援そのものが権利なのではなく、将来的な参加可能性への投資として扱われる
ことである。
EPSは「点数」ではない
住民へ公開されるのは原則として、
状態(Status)
だけである。
内部では多数のデータによる評価が行われているが、住民自身には総合点は表示されない。
これは意図的な設計である。
数値を表示すると、
「あと何点あればよいのか」
という交渉が発生する。
EPSが表示するのは、
現在、あなたはどの状態にあるか。
だけである。
つまり住民は評価方法のすべてを知らないまま、結果だけを生活条件として受け取る。
基本ステータス
1. Active(経済参加状態:有効)
通常状態。
就労、経営、研究、教育、育児支援、公共サービスなど、認められた形で都市経済へ参加している者。
一般的な住宅、医療、交通、給水、通信などの標準アクセスが保障される。
多くの住民はこの状態に属する。
端末表示:
Economic Participation Status: ACTIVE
2. Supported(支援下参加状態)
疾病、障害、出産、育児、高齢化、負傷などにより、通常の経済活動が困難な者。
この段階では、支援は積極的に行われる。
医療。
リハビリ。
職業訓練。
補助機器。
勤務時間の短縮。
職務変更。
場合によっては住宅環境の改善すら行われる。
一見すれば非常に手厚い福祉制度である。
なぜなら都市側には、
「適切な投資によって再び参加可能になる」
という判断があるからである。
3. Reallocation(再配置状態)
現在の役割では経済参加を維持できないが、
別の役割であれば参加可能
と判定された状態。
対象者は、
再配置プログラム(Reallocation Program)
への参加を求められる。
職業訓練、能力評価、身体機能評価、配置転換などが行われる。
例えば、
現場作業員 → 遠隔監視
運転手 → 配車管理
高齢技術者 → 教育担当
など。
住民側から見れば、
「都市が次の仕事を探してくれる」
制度でもある。
だから多くの住民はこれを善意ある制度として受け入れている。
4. Restricted(制限状態)
再配置が進まない、あるいは一定期間にわたり参加可能性が低下した者。
ここから生活上の制限が始まる。
例えば、
住宅等級の低下。
交通利用範囲の縮小。
一部施設へのアクセス制限。
通信帯域・公共サービスの優先順位低下。
給水・エネルギー割当の縮小。
ただし生命維持に必要な最低限のサービスは維持される。
重要なのは、
これは罰ではない
と説明されることである。
公式用語では、
資源配分の適正化(Resource Alignment)
と呼ばれる。
5. Suspended(経済参加資格:停止)
住民が最も恐れる状態。
Economic Participation Status: SUSPENDED
一定期間にわたり経済参加への復帰可能性が認められない場合に適用される。
この状態では、
住宅。
医療。
交通。
給水。
通信。
教育。
都市内移動権。
などが最低限度へ縮小される。
ただし、形式上は市民資格そのものを失うわけではない。
追放もされない。
逮捕もされない。
だからオリュンピュア財閥は、
「誰も見捨てていない」
と言うことができる。
実際には、
生存できるが、社会へ参加することは極めて困難な状態
へ置かれる。
内部評価――Participation Viability
EPSの判定には、内部的に、
経済参加可能性(Participation Viability)
と呼ばれる予測モデルが利用される。
評価対象には、
現在の職務。
技能。
健康状態。
再訓練可能性。
労働需要。
職務代替性。
支援コスト。
予測される復帰期間。
などが含まれる。
重要なのは、
人格や道徳性は原則として評価項目ではない
ことである。
善人だから優遇されることもない。
嫌われているから下げられることもない。
だから制度運営側は、
「差別のない完全に公平な制度」
と主張できる。
しかし、
人間を経済的将来性によってのみ公平に測ること自体が問題である
という問いは、制度設計の外に置かれている。
猶予期間
失職や疾病によって、即座にSuspendedになるわけではない。
通常は、
移行猶予期間(Transition Window)
が設けられる。
この期間には、
再就職支援。
医療。
再訓練。
職務斡旋。
能力評価。
などが提供される。
これは制度の慈悲ではない。
都市側から見れば、
住民へすでに投資した教育・経験・技能を失わないための回収期間
でもある。
異議申立て
EPSには異議申立て制度も存在する。
住民は、
- データが間違っている
- 医療記録が更新されていない
- 職務履歴が誤っている
- 資格情報が反映されていない
といった理由で再審査を求めることができる。
しかし、
「そもそも経済参加可能性によって生活条件を決める制度が不当である」
という異議は審査対象にならない。
つまり、
アルゴリズムの入力には異議を申し立てられる。
アルゴリズムが存在することそのものには申し立てられない。
緊急医療
救命医療そのものは全住民に提供される。
事故で重傷を負えば治療される。
急性疾患も処置される。
ただし問題はその後。
高度な長期治療。
高価なリハビリ。
慢性疾患管理。
長期療養。
これらになると、
「将来的な参加可能性」
が判断材料へ入ってくる。
「死ね」とは言わない。
「どこまで治療することが合理的か」を計算する。
子供
未成年者には通常のEPSを付与しない。
代わりに、
Dependent / Developmental Status
として扱われる。
教育や医療は、
将来の経済参加者への投資
として非常に手厚い。
そのためアイガイオンは、
教育水準。
児童医療。
職業訓練。
において非常に高い水準を誇る。
子供を粗末に扱う社会ではない。
むしろ、将来価値があるから徹底的に育てる。
高齢者
高齢者も単純に排除されるわけではない。
経験。
技能。
監督。
教育。
相談。
文化継承。
などへ再配置される。
そのため、
「アイガイオンには高齢者差別がない」
という広報すら可能になる。
ただし、
どの役割にも再配置できないと判定されたとき
制度の冷酷さが露出する。
私的保証
富裕層や家族は、
私的参加保証(Private Participation Guarantee)
を設定できる。
つまり、
「この人物の生活コストを都市ではなく私が負担する」
と保証することで、RestrictedやSuspended状態でも一定水準の居住・医療・交通を維持できる。
するとアイガイオンは、
「誰も差別していません。必要な資源には必ず費用がかかります」
と言える。
しかし現実には、
金持ちは“役に立たなくなっても”人間らしく暮らせる。
この矛盾が残る。
EPSの恐ろしさ
EPSには銃も刑務所も必要ない。
ある日、端末に、
Economic Participation Status: SUSPENDED
と表示される。
すると次の月から、
住む場所が変わる。
利用できる交通が減る。
医療予約が取りにくくなる。
水の割当が下がる。
ネットワーク上の資格が減る。
周囲の人間も悪意なく、
「再配置プログラムを受ければいいじゃない。」
と言う。
誰も迫害していない。
誰も憎んでいない。
ただ、制度がその人へ割り当てる世界が小さくなる。
TINAとの関係
EPSは、TINA思想を最も日常的に体験させる制度である。
住民には形式上、選択肢がある。
再訓練を受ける。
再配置を受ける。
別の職務を選ぶ。
しかし、
「経済参加そのものを拒否しながら、同じ権利を維持する」
という選択肢だけは存在しない。
つまり、
働き方は選べる。
しかし、参加するかどうかは選べない。
ここにTINAがある。
Economic Participation Statusは、人間の価値を測定する制度ではない。
少なくとも、アイガイオンはそう説明する。
測定しているのは、
「この人物へ、あとどれだけ都市資源を投入する合理的理由があるか」
だけである。
しかし、食料、水、医療、住居、交通、通信のすべてがその判断へ接続された都市では、
人間の価値と資源配分の違いは、やがて誰にも分からなくなる。
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