オリュンピュア財閥によって建設・運営される、巨大洋上経済圏。
単なる人工都市ではなく、居住、産業、金融、行政、研究、軍事、物流、医療、教育を一体化した自己完結型の経済社会である。
その理念の根底には、オリュンピュア財閥が掲げる思想、
There Is No Alternative.
――他に選択肢はない。
が存在する。
アイガイオンはしばしば、人類の技術力と経済合理性が到達した「成功都市」として語られる。
しかしその実態は、
生存そのものを経済価値によって配分する都市
である。
都市構造
アイガイオン・タワーを中心とした、多層・ハニカム型巨大メガフロート人工都市。
公式所在地は非公開。
Darsah島から約20海里離れた海域に存在するとされる。
完全な自航都市ではなく、海象、保守、防衛、物流上の必要に応じて、
数百メートルから数キロ程度の位置調整
を行うことが可能。
巨大な係留設備、姿勢制御機構、補助推進設備によって海上の位置を維持している。
都市そのものが移動するというより、
「海上に固定されながら、必要に応じて場所をずらす巨大構造物」
に近い。
アイガイオン・タワー
経済圏中央部に位置する超高層複合施設。
行政、金融、認証、軍事指令、通信など、アイガイオン社会の中枢機能が集中している。
都市の象徴であると同時に、
アイガイオンという社会の「意思決定そのもの」が集積した場所
でもある。
電力
主電源は、次世代小型原子力発電機関、
「タルタロス・コア」
複数機。
アイガイオン経済圏全体の電力需要を満たしてなお、十分な余力を持つ。
加えて、
- モンスーン風力
- 波力
- 潮流発電
などの再生可能エネルギー設備が補助電源として運用される。
アイガイオンはこれを、
「嵐すら資源に変える都市」
と宣伝している。
人類が自然を克服した記念碑。
そう見える。
しかし実際には、
電力、水、住居、医療、移動――生存に必要なものすべてを都市システムが管理することで、生存そのものを私有化した社会
でもある。
水資源
アイガイオンは三系統の大規模淡水化プラントを生命線としている。
第一系統
上層居住区および中央行政・金融区画。
第二系統
一般居住区、商業区、工業区。
第三系統
非常時バックアップおよび軍事関連区画。
水資源は単なる公共インフラではない。
居住資格、職務、社会的信用、非常時優先順位などによって、利用可能量や供給優先度が変化する。
したがってアイガイオンにおいて「水を得る権利」とは、
人間として生きていることによって保証されるものではない。
住民社会
アイガイオン社会では、原則としてすべての住民が何らかの経済活動に参加することを求められる。
ここでは、
「生きているから権利がある」
のではない。
「機能しているから席がある」
のである。
この原則は福祉制度にも徹底されている。
病気になれば治療される。
ただし、
復職できる可能性があるなら。
高齢になれば仕事を失うわけではない。
教育、監督、助言、管理など、身体負担の少ない職務へ再配置される。
障害を負った者にも支援制度は存在する。
別の職務や経済活動へ適応可能である限り、都市は積極的に支援する。
一見すれば、それは極めて高度な社会保障制度に見える。
しかし評価基準は一貫している。
「投入される資源に対して、将来的な経済的復帰が期待できるか」
である。
その可能性が失われたと判定された瞬間、支援は福祉ではなくなる。
制度から外される。
つまりアイガイオンにおける福祉とは、
人間を守る制度ではない。
人的資本を修理し、再び生産活動へ戻すための整備システム
なのである。
経済参加資格
住民には、経済活動への参加状態を示す資格情報が付与される。
失職、長期療養、信用低下などによって条件を満たせなくなった場合、端末には静かに、
Economic Participation Status: Suspended
と表示される。
逮捕されるわけではない。
追放命令が下されるわけでもない。
誰かが怒鳴ることもない。
翌月から、
住宅区画の等級が下がる。
医療アクセスの優先順位が下がる。
給水枠が縮小される。
交通利用範囲が制限される。
各種施設へのアクセス権が減少する。
そして本人には、
再配置プログラム
への参加が勧められる。
周囲の人間も悪意なく言う。
「再配置プログラムを受ければいいじゃない。」
彼らにとって、それは冷酷な発言ではない。
むしろ、
助言
なのである。
内面化されたTINA
アイガイオンの社会統制には、露骨な暴力をほとんど必要としない。
なぜなら住民自身が、
「働けるなら支援される」
「役に立つなら居場所がある」
「効率が悪ければ改善すればいい」
「改善できないなら、優先順位が下がるのは仕方がない」
という論理を自然なものとして受け入れているからである。
そこには悪意がない。
住民は互いを憎んでいるわけでもない。
政府が毎日恐怖政治を行っているわけでもない。
だからこそ、この社会は強固である。
誰も悪人ではない。
しかし、誰も助けない。
なぜなら、
助ける合理的理由が存在しないから。
アイガイオンの本質
アイガイオンは失敗した都市ではない。
むしろ、
効率性だけを基準とするなら、極めて成功した都市
である。
犯罪は少ない。
失業者には再教育制度がある。
病人には治療制度がある。
高齢者にも役割が与えられる。
インフラは安定している。
資源配分も高度に最適化されている。
問題はただ一つ。
その社会には、
「何の役にも立たなくても、人間には価値がある」
という原則が存在しない。
だからアイガイオンは、
人間を排除した都市ではない。
むしろ、
人間を徹底的に合理化した結果、人間性だけが排除された都市
なのである。
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