オリュンピュア財閥が開発した次世代モジュール原子炉。
旗艦オケアノスには4基が搭載されており、推進、兵装、指揮統制、艦内工業設備などへ膨大な電力と熱エネルギーを供給する。
後に、この技術を発展させた複数基のタルタロス・コアがアイガイオン経済圏にも導入され、その巨大都市を支える基幹電源となっている。
小型モジュール炉――SMR
SMR(Small Modular Reactor)とは、一般に従来型の大型商用原子炉より小規模で、モジュール化による工場製造・現地組立を想定した原子炉を指す。
国際的には、1基あたりおおむね300MWe以下という規模が一つの目安として用いられる。
大型炉と比較して、
建設単位を小さくできること、
需要に応じて増設できること、
工場生産による標準化が可能であること、
受動的安全機構を導入しやすいこと、
などが利点として期待されている。
また発電だけでなく、
海水淡水化、
産業用熱供給、
水素製造、
地域熱供給、
などへの利用も研究されている。
主な技術系統
SMRは「一つの炉型」を意味する言葉ではない。
さまざまな原子炉技術を小型・モジュール化したものが含まれる。
軽水炉型
既存原子力発電所でも広く使用される水を、冷却材・減速材として利用する。
既存技術との連続性が高い。
高速炉型
液体ナトリウムなどを冷却材として利用するもの。
燃料資源の有効利用や燃料サイクルの高度化を目標とする。
高温ガス炉型
ヘリウムなどを冷却材として用い、高温の熱を取り出す。
発電だけでなく水素製造や産業熱利用にも適する。
溶融塩炉型
高温で液体となった塩を利用する原子炉。
液体燃料方式の場合、燃料そのものが運転時から溶融状態にあるため、従来型固体燃料炉における「炉心溶融」とは異なる安全思想を持つ。
一方で、高温塩による材料腐食、燃料塩の化学管理、放射性物質の封じ込めなど、固有の技術課題も存在する。
タルタロス・コアの炉型
タルタロス・コアは、
溶融塩炉型・トリウム燃料サイクル
を採用する。
ただしオリュンピュア財閥は、一般的なSMR開発のように「可能な限り小さくする」ことを最優先していない。
オケアノスへ搭載可能という制約の中で、
十分な出力、長期間の連続運転、高い熱利用能力、そして海上運用への耐性
を優先して設計されている。
一基あたりの最大電気出力は、30万kW(300MWe)。
オケアノスは4基を搭載するため、理論上の最大総電気出力は、
120万kW(1.2GWe)に達する。
それは単なる艦艇用動力源というより、
巨大な発電所そのものが海上を移動している
に等しい。
ハステロイN++
炉構造材には、実在する耐食合金ハステロイNをさらに発展させた架空材料、
Hastelloy N++
が用いられている。
高温溶融塩環境における耐食性、長期間の中性子・放射線照射への耐性、高温強度を大幅に向上させた特殊合金とされる。
タルタロス・コアの成立を可能にした重要技術の一つである。
電力よりも巨大な「熱」
タルタロス・コアの本当の問題は、発電量だけではない。
原子炉は、取り出した熱エネルギーのすべてを電力へ変換することはできない。
炉内で生成された700℃を超える高温熱の一部は、
艦内工業設備、
海水淡水化、
補助動力設備、
などへ供給される。
しかしオケアノスの設計思想では、
航行能力、兵装、指揮統制系の維持
が最優先される。
経済的価値や軍事的価値の低い熱まで徹底して再利用する思想はない。
利用されなかった膨大な排熱は、熱交換系を通じて海水へ放出される。
空を汚す白い影
その結果、オケアノス周辺では常に巨大な熱的痕跡が生じる。
大量の温排水によって海面付近の水温が局所的に上昇する。
そこから供給された水蒸気を含む暖かい空気が、冷たい海上大気と混ざる。
条件が整えば、水蒸気は微細な水滴へ凝結し、
人工的な海霧
を形成する。
特に低温・多湿の海域では、オケアノス自身が濃密な霧に包まれる。
遠方から見れば、
巨大な雲塊が海面すれすれを移動している
ようにしか見えない。
これはステルス装置ではない。
むしろ、
莫大なエネルギーを浪費できる者だけが残せる痕跡
である。
シルヴァ・ネブラエ
オケアノスが 霧の森域(シルヴァ・ネブラエ) へ接近すると、現象はさらに顕著になる。
森が生み出す自然の霧。
オケアノスから放出される排熱によって生まれた人工霧。
二つは境界を失い、巨大な白い層となって森を覆う。
オリュンピュア財閥は、その光景を広報資料の中で、
「環境との同化」
と表現した。
森に暮らす者たちは、もっと簡単な言葉を使った。
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