傷ついたものが、もう一度根を張るための土を整える人。
レオ・ケレスの母であり、霧の森域の土に触れる庭師。
淡い銀緑の髪を一つに束ね、装飾の少ない麻の服を身につけている。
庭仕事の際には袖をまくり、手袋を嫌って土へ直接触れる。
彼女にとって土とは、ただ植物を育てるためのものではない。
記憶を受け止め、痛みを沈め、失われたものをもう一度芽吹かせるための場所である。
デメテルは多くを語らない。
だが、ケレス家の記録において、彼女は「稀代のクバネティス」と記されている。
古代の巫女クバネティスの血脈を継ぐケレス家の中でも、彼女の資質は際立っていた。
人、組織、都市、そして時代そのものが抱える複数の未来を、彼女は他の誰よりも鮮明に感じ取ることができた。
しかしデメテルは、その力を未来を支配するためには使わなかった。
彼女にとって未来とは、命令されるものではない。
土の中で、まだ名を持たない種が選び取っていくものだった。
デメテル・ケレスは、歴代のケレス家でも稀に見るほど強いクバネティスの資質を持っていた。
クバネティスとは、未来を一つに定めて告げる予言者ではない。
人や共同体の中に眠る複数の可能性を感じ取り、それを示す巫女である。
デメテルの力は、特に「土」と「記憶」を通して発現する。
彼女が土に触れるとき、その場所に残された痛み、喪失、願い、そしてまだ失われていない可能性が、匂いや湿度、根の張り方として伝わってくる。
彼女は未来を断言しない。
ただ、閉じかけた道のそばに、まだ残っている小さな芽を見つける。
それが、デメテル・ケレスというクバネティスの巫女の力である。
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