現当主アガメムノン・オリュンピュアを頂点とする、オリュンピュア財閥のオーナー一族。
古くから海運業を営んできた家系であり、複数世代にわたって港湾、船舶、貿易網へ資本を蓄積してきた。
しかし、一族を現在の巨大財閥へ変貌させたのは、アガメムノンの代である。
「海路を制する者は、世界を制する。」
その言葉どおり、彼は単に船舶会社を巨大化させたのではない。
港。
倉庫。
保険。
金融。
エネルギー。
通信。
軍需。
情報。
海上輸送に接続する産業を次々と取り込み、
「物が世界を移動するために必要な経路そのもの」
を所有する巨大産業組織を築き上げた。
今日では世界各地の航路、港湾、物流拠点へ直接・間接の影響力を持ち、政財界、軍需産業、情報機関とも深い関係を有している。
その力は、もはや一企業集団の範囲に収まらない。
人々は畏怖と皮肉を込めて、一族を、
「現代の新興貴族」
と呼ぶ。
「新興貴族」
オリュンピュア家そのものが最近成立した家系という意味ではない。
海運家としての歴史は古い。
しかしアガメムノンの代に、
国家さえ無視できない超国家的権力を獲得した
という意味で、「新しく生まれた貴族階級」とみなされている。
領土ではなく物流網を持つ。
農奴ではなく労働市場を持つ。
城壁ではなく金融と認証システムを持つ。
軍隊ではなく企業防衛局を持つ。
つまりオリュンピュア家は、
封建貴族の構造を、現代の企業・金融・情報ネットワークによって再構成した一族
ともいえる。
海から世界へ
オリュンピュア家の基本的な発想には、海運業者としての歴史が強く残っている。
船を動かすには、
出港地。
航路。
港。
燃料。
保険。
荷役。
目的地。
が必要になる。
一つでも欠ければ、貨物は届かない。
この経験から、一族は早くから、
「対象そのものを所有する必要はない。
そこへ至る経路を握ればよい。」
という発想を身につけた。
後にこれは、
物流だけでなく、
情報。
金融。
政治。
人間の移動。
さらには、
選択肢そのもの
へ適用されていく。
アガメムノン・オリュンピュア
アガメムノンは、一族の事業を巨大化させただけではない。
彼はオリュンピュア家の目的そのものを変えた。
それまでの一族が、
富を獲得する家
であったとすれば、
アガメムノン以降のオリュンピュア家は、
不確実性を所有しようとする家
になった。
市場変動。
政治情勢。
戦争。
技術革新。
人間の判断。
未来には予測不能な要素が存在する。
アガメムノンにとって、それは単なる不確実性ではない。
支配できていない領域
である。
次に欲したもの――未来
世界の富を得た。
航路を得た。
政治的影響力を得た。
情報を得た。
そこでオリュンピュア家が次に求めたものが、
未来
だった。
ただし、
未来を知りたいのではない。
予言を聞きたいのでもない。
どの未来を現実として残すのかを、自ら決定したい。
アガメムノンにとって、
未来を予測するだけでは不十分だった。
予測された未来の中から、
望ましいものを残す。
望ましくないものを排除する。
そして最終的には、
未来を「選択肢」ではなく「決定事項」にする。
そこまでが目的だった。
クバネティスへの接触
その野心の先で、
オリュンピュア家は古代から続く巫女の血脈、
クバネティス
へ目を向ける。
当時、明確にその能力を継承していた人物が、
アルマ・ケレス
だった。
若き日のアガメムノンは、
婚姻。
資本提供。
庇護。
政治的利益。
そして必要なら威圧。
利用可能なあらゆる方法を用いて、
アルマとケレス家を自らの影響下へ置こうとした。
表面的には、
一族間の提携。
あるいはクバネティスの保護。
しかしアルマは、その奥にある目的を見抜いた。
アガメムノンが求めていたのは、
未来を見る巫女ではない。
未来を選ぶ権利を、他者から取り上げるための巫女
だった。
アルマ・ケレスの拒絶
アルマは要求を拒んだ。
それはオリュンピュア家にとって、単なる交渉失敗ではない。
アガメムノンにとって初めて、
金銭でも、権威でも、保護でも、恐怖でも買えない「拒否」
に出会った瞬間だった。
そして、クバネティスの思想そのものが彼の野心と相容れなかった。
クバネティスは可能性を示す。
しかし、
選択は本人へ返す。
アガメムノンは可能性を見る。
そして、
どれを残すか自ら決定しようとする。
両者は、未来を見る能力をめぐって対立したのではない。
未来を選ぶ権利は誰に属するのか。
その一点で対立した。
ケレス家との確執
アガメムノンは、アルマの拒絶を忘れなかった。
しかし年月とともに、
彼の関心はアルマ本人から、
その血統へ移っていく。
そして次の世代に、
デメテル・ケレス
が現れる。
母アルマを凌ぐ可能性を秘めた、稀有なクバネティス。
オリュンピュア家にとって彼女は、
一人の人間であるより先に、
未来予測という未獲得資産
として認識されることになる。
そこから、
《Project Oracle》。
アイガイオン・タワー地下。
《奈落の楽園郷》。
そして、
デメテルを未来予測機構の中核へ組み込む計画へとつながっていく。
つまり、
母が拒んだ鎖を、娘へ掛け直す。
これがオリュンピュア家とケレス家の確執の核心である。
オリュンピュア家とTINA
オリュンピュア家の思想は、やがて、
There Is No Alternative
という社会設計へ接近していく。
彼らが恐れるのは、
選択肢が存在することそのものではない。
自分たちが管理できない選択肢
である。
市場が予測不能なら管理する。
物流が不確実なら経路を所有する。
人間の行動が不確実なら認証する。
社会が不安定なら再配置する。
未来が不確実なら予測する。
そして最後には、
他の未来が現実にならない条件を作る。
アイガイオン経済圏は、この思想が都市そのものになった場所ともいえる。
一族と個人
家。
財閥。
アガメムノン個人。
クロノス個人。
企業防衛局。
それぞれは完全には一致しない。
一族の中にも、
恐怖。
忠誠。
反発。
野心。
諦念。
が存在する。
しかし巨大な制度は、一個人の疑問より長く生きる。
その意味でオリュンピュア家の本当の恐ろしさは、
悪意ある当主が存在することではなく、当主が交代しても思想と利益構造が継承され得ること
にある。
オリュンピュア家の主題
彼らが求めているものは、より現代的である。
予測可能性。
安定性。
効率。
管理可能性。
それら自体は社会に必要な価値でもある。
しかし、
不確実性を完全に消そうとしたとき、
人間の自由まで、
管理すべき変数
になってしまう。
ここにオリュンピュア家の悲劇がある。
オリュンピュア家は、世界を破壊したいのではない。
世界を予測可能にしたい。
安定させたい。
制御したい。
海を航路へ変え、
航路を物流へ変え、
物流を経済へ変え、
経済を政治へ変えた。
そして最後に、彼らは未来そのものを管理しようとした。
そのときクバネティスは、彼らへ一つだけ答えた。
「未来を見ることと、未来を所有することは違う。」« Back to Glossary Index

