「正義」を行使するということ/正義の執行者を形づけるもの
「とんでも戦士ムテキング」と「宇宙の騎士テッカマン」。
一見、ヒーロー像の方向性が異なる、と捉えがちなのですよね。
一方は、
変身完了 → ワンマン歌唱ショー。
もう一方は、
明らかに絶望的な状況 → 変身完了 → 逆転のカタルシス。
ですが、注意深く見ると、どちらも共通していることがあります。
それは、『正義の執行者になるためには、自らの覚悟を差し出さなければならない』――。

「お待たせしました――あ、原稿執筆中でしたね」
集中状態を中断させたことに、彼女――クロニカ・L・エディティアは申し訳なさげに言葉を止める。
「いや、大丈夫だよ、クロニカ――ありがとう」
クロニカがそっと差し出したアイスティーを受け取り、僕は感謝を述べる。
「いえいえ――で、今回は……『とんでも戦士ムテキング』に『宇宙の騎士テッカマン』?――今回はついにタツノコ作品に触れるんですか」
「そうだね、どっちもかなり思い入れがあるんだけどね」
「私の世代的に、どちらもまともに視聴経験がありませんね。噂では――ムテキングはイロモノ枠なんでしょ?」
これはある意味仕方の無い反応と言える。
どう考えても、変身直後、ヒーローのワンマン歌唱ショーなんて奇抜だと思うし。
「そう見えるよね。でも、変身シーンだけを取り出して見ると、むしろかなり厳格なんだ」
「厳格――ですか」
クロニカの腑に落ちない表情を見て、
「じゃあ、まずはそのムテキングから、紐解いていこうか」
僕は、一旦タブレットを閉じ、クロニカに話し始めた――。
「とんでも戦士」は、実は本当にとんでもなかった
「まず、リンは最初からヒーローではないんだ」
「え、でも、その遊木リン、って少年が、変身するんですよね?」
きょとんとするクロニカを見て、
「正確には『変身することを受け入れる』んだね」
と、僕が続ける。
「変身することを――受け入れる?」
僕はクロニカの言葉に頷く。
「じゃあ、タコローが勝手に強くしてしまうわけではないんですね?」
「そうだね。タコローはリンに『変身ヒーローへの橋渡し』をするんだね」
「橋渡し?」
ますます首をかしげるクロニカの仕草が可愛くもあったので、僕は少し説明を加える。
舞台は、くどいほどアメリカナイズされた感じの都市、『ヨンフランシスコ』。
ヨンフランシスコの警察署長である、優秀で勇敢な母親と、タコベーダーの存在にいち早く気がついて、日夜怪しげな研究をしている父親、そしていわゆる年の離れたチャラい兄貴、従姉妹の少女との家族の中で、勉強は苦手だが遊びが大好きな、元気な小学生『遊木リン』が主人公。
リンは当時の基準でも、平均的な男の子であるのだけれど、チャラい兄貴がヨンフランシスコ警察の刑事で、曲がりなりにも治安に寄与しているため、ちょっとした劣等感を抱いている。
で、そんな男の子リンは、ひょんなことで、タコベーダーの自称保安官タコローと出会い、タコローは、自分のミスで脱走してしまった「クロダコブラザーズ」を追って、地球まで来たという。
どう考えてもコミカルなクロダコブラザーズは、同じく地球のヨンフランシスコにの廃屋敷に隠れ住み、ヨンフランシスコに悪巧みを開始していく――。
『正義の象徴』は一番最後に装着される
「変身することを――受け入れる? でも、リン君はヒーローに変身することになるのですよね?」
「プロセスが違うんだね」
「プロセス?」
クロダコブラザーズが繰り出してきた『ゴム獣』の攻撃に、リンとタコローは大ピンチを迎える。
絶妙なタイミングで、タコローの乗ってきた『ホットケソーサー』が、周囲の空間を変化させる『シリアス玉』を打ち出して、ゴム獣の攻撃を一時的に止める。
そのチャンスに、タコローは、リンに『スミ』を吐く。
「タコベーダーだから――墨。ああ、なるほど」
「うん、で、その墨を吐きかけられたリンは、どうなると思う?」
僕は説明を止め、クロニカに質問を投げかける。
「そうですね――何となく、キラキラした空間で、ヒーロースーツを纏っていくような」
――うーん。某美少女戦士チックだなぁ。
「残念、そこはさすがタツノコプロ、そこはちょっと違うんだね。正解は――リンは明らかに苦しんでるんだ」
その僕の言葉に、さすがのクロニカも思わず声を挙げてしまった。
「え!? 変身するのに、苦しんでるんですか?」
「苦しんでいる――そう見えるんだけど、実はもっと深い理由があるんだよ」
リンは、タコローの墨を浴びる。
その瞬間、彼は明らかに苦悶する。
もちろん、作中で「正義という概念を流し込まれている」と説明されるわけではない。
けれど僕には、あの一連の変化が、単なるスーツ装着にはどうしても見えない。
まるで膨大な情報と概念――『正義とは何か』そのものを、理解より先に身体へ刻み込まれているように見える。

僕には、あの変身がただの装着には見えない。
リンは「正義の力」を受け取るのではなく、
正義を行使する者になるための負荷そのものを受け止めている。
「そして、最後にシェリフスターが付く。ムテキングの誕生だね」
「……なるほど。だから“変身”ではなく、“叙任”なんですね」
変身とは叙任式
クロニカの発した『叙任』という言葉を聞いて、僕は思わず表情が緩んだ。
「いい表現だね。ムテキングは、タコローとリンによる『叙任式』で誕生する『保安官』なんだよね」
「保安官? 戦士でもなく、ヒーローでもなく、保安官ですか?」
そう。ムテキングは、『とんでも戦士』だけど、単純な戦士ではない。
正義を示す王でもない。
保安官という役割は、日本では少し馴染みが薄い。
アメリカでは地域によって制度に違いがあるが、多くの保安官は住民によって選ばれ、法によって治安維持の権限を与えられる存在だ。
つまり、単に「強いから悪を倒してよい」わけではない。
共同体から託された権限を、その法と責任のもとで行使する者なのである。
作中の象徴として、
タコローが叙任する。
リンが受任する。
シェリフスターが、その委任と受任の成立を可視化する。
という流れは、その保安官の意味合いを、再解釈した感じなのだろう。
「だから、ムテキングは『正義だから、敵を殴ってもいい』とはならない」
つまり、
力 → 正義
ではなく、
委任 → 受任 → 責任 → 権限行使
という、厳格な手順を踏んだ上で、正義を執行するのだと思う。
「『ヒーロー=正義=力』という一次式ではなくて、きちんと手順を踏んで、その上で、リン君は正義の執行者を叙任され、初めて正義の権限を行使するのですね』
「そう。少なくとも僕には、ムテキングの変身はそう見えるんだ」

「――お二人とも、なかなか深い話題をされていますわね」
彼女――エレノア・ジンを思考の森の会議以外で、ここ『霧の砂糖(シュクル・ドブリュム)』で見かけることは、珍しい。
僕のその心の動きを見透かしているかのように、エレノアは、
「手土産を買いに来ましたの。こちらの菓子を好まれる方は多いので」
なるほど、確かにエレノアの花籠の中に、包みに入った菓子折が見える。
「……聞かれていました?」
とクロニカは少し驚き、
エレノアは、
「ええ。『正義は叙任される』――とても興味深い考え方ですわ。でも、一つ気になりましたの」
――ほう。
「叙任する側の正義は、誰が保証するのでしょう?」
騎士の誕生――城二は正義に肉体を差し出す
「その話に入る前に――もう一人、正義を引き受けた男の話をしようか」
僕の言葉を興味深そうに、僕とクロニカの間の席へつきながら、エレノアは僕に視線を向ける。
「正義を引き受ける――正義という意味と責任を、という意味でしょうか」
エレノアの問いに直ぐには答えず、僕は話を続ける。
「彼もまた、最初から騎士だったわけではない」
宇宙の騎士テッカマンの世界観はこうだ。
21世紀、人類は宇宙へ進出し始めていたが、地球はそれまでの環境破壊によって植物は死に絶え、数年後には死の世界になる運命だった。
環境回復のために「クリーン・アース計画」を行ったものの、すでに地球の環境は回復不可能なレベルに達していた。
かくして、宇宙開発センターの天地局長らは秘密裏に立案された計画――全人類を他の天体に移住させる――を実行するための必要な技術である超光速航法(リープ航法)の研究に全力を注いでいた。
――そこへ、宇宙の彼方から侵略を開始してきた、宇宙征服を企む「悪党星団ワルダスター」が突如襲来、主人公・南城二の父親がその攻撃を受けて命を落としてしまう。
城二は独断でスペースアース号に搭乗し、地球を出発するが、そこには天知博士の娘である天知ひろみが、城二の身を案じて乗船しており、二人はブルーアース号で宇宙を進行するが、そこには、またしてもワルダスターの魔の手が――。
「なるほど、荒廃する運命の地球から、新たなフロンティアを目指すが、そこには大きな障害となる敵が現れた、と」
クロニカがそう言うと、
「もはや手遅れになるまで荒廃する地球――何とも身に詰まされるストーリーですわね」
エレノアが続ける。
「放映当時は、公害問題が深刻化していた時勢ですからね。その空気を反映していると思います」
「で、そのワルダスターからの再度の攻撃に、城二さんらはどのように対応するのでしょう?」
「ここが一番の見所だね。城二は、ブルーアース号に同じく乗船している『ペガス』というロボットに向かう」
「ペガス、ですか?」
エレノアの疑問に、僕は説明を続ける。
ペガスに向かって、城二は叫ぶ――『テックセット!』。
ペガスはその命令コードに『ラーサ』と応答し、脚部の『セッタールーム』を開く。
城二はそのセッタールームに入る。直後、ペガスの格納ルームはシールドで隔離される。
ただならぬ状況に、城二に危険が迫っていることを感じ、必死に城二の名を叫ぶひろみ。
セッタールームは閉じ、内部の城二は『パワーラップ!』と叫ぶ。
直後、鋼鉄の茨のようなバンドが城二の全身を覆っていく。
――いや、正確には『拘束していく』。
「拘束!? 変身シークエンスですのに」
エレノアの疑問はもっともだ。

この変身プロセスは明らかに常軌を逸している。
パワーラップは、城二を文字通り締め上げる。
苦痛に城二の表情が歪み、苦悶の声を思わず漏らす。
パワーラップは、城二の体へ鎖帷子のように巻き付き、同時に膨大な電流のようなエネルギーが城二を貫く。
そして、城二の体を、鋼鉄の甲冑にも似たパーツが装着されていく。
そして――テッカマンをテッカマンたらしめる『ボルテッカ』が額に装着され、変身シークエンスは完了する。
「苦痛に耐えながら、それでも変身するのですね」
エレノアの悲痛な表情に、僕は少し良心の呵責を覚える。
「そう。しかも、ここで終わりじゃない」
「え!?まだ――まだ苦しむのですか、テッカマンは」
今度はクロニカが悲鳴にも似た声を上げる。
「テッカマンは、変身できたから勝ちなのではないんだ。変身した時点から、すでに時間と肉体を削り始めている」
僕は説明を続ける。
テッカマンは、確かに変身によって、無敵に近い肉体を手に入れる。
しかし――それは『リミット』が存在する。
テッカマンの変身時間には時間制限があり、一定時間を過ぎると肉体の細胞が崩壊してしまい、適合者でも死んでしまう。
宇宙パイロットとして鍛え上げられた城二の肉体も例外ではなく、37分33秒までしか肉体強化を維持することはできないとされる。
「そんな――苦しみに耐えて、やっと変身できても、自己崩壊と隣り合わせなのですか」
二人は悲痛な表情を浮かべる。
「そう――テッカマンという存在は、まさに『正義の叙任』をされた瞬間から、代償の支払いが始まる」
強者だから騎士になれる
ではなく、
騎士になる資格を得た者であっても、毎回その資格の代価を身体で払い続ける
のだ。
「確か――ボルテッカはテッカマンの最強武器でもあるのですよね?」
クロニカがその問いを投げたことで、僕はさらに残酷な事実を告げなければならないと悟った。
「そうだね。ボルテッカは、テッカマンが有する最強の兵器でもある。しかし――」
「しかし?」
「ボルテッカを放つことで、テッカマンは、文字通り生命の危険をも差し出す」
ボルテッカは、敵を打ち倒すための最終兵器である。
だが、それは同時に、テッカマン自身の生命エネルギーを削り取る行為でもある。
つまり、彼が最も「テッカマンらしく」なる瞬間ほど、彼自身は「南城二」という肉体から遠ざかっていく。
端的な例として、『ボルテッカ三段返し』という荒技がある。
これはただでさえテッカマン自身に過剰なまでの負担を強いるのに、それを立て続けに3発も発射する。
その行為にさすがのペガスも『城二、いけない』と制止に入る。
ボルテッカ一発では防がれてしまうのを、次、また次を連続で追い込むことで、敵の防御を打ち破る。
「それで――それで、テッカマンは――」
その後の悲劇を予見したようなクロニカ。
「テッカマンは直後、自己崩壊し、変身が強制解除される。城二は生命エネルギーを極限まで喪失し、仮死状態にまで追い込まれる」
「そんな――!」
クロニカが顔を覆う。

勝利の後で――正義への署名
「……勝ったのですね」
エレノアは絞り出すように、そう言葉を紡ぐ。
「うん。勝ったよ」
でも。
「でも、その勝利の代価として、城二自身が戦場から消えかけた」
言葉を失う、エレノア。
「叙任する側の正義は、誰が保証するのか?という質問だったね。でも、エレノア――もう答えは、既にあなたの中にあるのではないですか?」
エレノアは、少し時間をおいて、
「……叙任する側だけでは、正義は保証できない。受任した者が、その力の結果まで引き受け続けて、初めて正義は試される――そういうことでしょうか」
「うん。僕はそう思う。正義は、一度叙任されたから完成するものじゃない。行使するたびに、その結果へ署名し直すものなんだ」
行使される度に、その結果に署名する。
それは、正義という行為に責任を持つこと。
そして、もしその正義が誤っていたと知ったなら、
過去の署名を消すのではなく、改稿し、もう一度署名すること。
正義は、一度掲げれば終わる旗ではない。
行使するたび、結果を引き受け、必要なら書き直し、再び署名する。
僕は、そう思えてならない。
正義は叙任される。
しかし、叙任されたから正義なのではない。
行使した者が、その結果に署名し続けることで、初めて正義は正義であり続ける。

はい、正義の叙任、そして正義の署名という、重いテーマを今回は扱いました。
私見ですが、今回のこの論点を私はこう見ます。
正義のヒーローは、万能ではない。
そして、正義とは、その行為責任を受け入れることを選択し時には身を差し出す覚悟を要求することなのだと。
もちろん、これは私見ですので、また別の解釈も成り立つと思います。
でも、それでいいと思います。
千差万別の正義の解釈があるからこそ、私たちはそのたびに問い直し、署名し直していくのだと思います。
しかし、まだ論点の整理が必要です。
正義を行使した者が結果に署名することは、その行為の責任を明確にする。
しかし、それだけで、その正義そのものが正しかったことにはならない。
では、叙任された正義が間違っていたとき、受任者には何ができるのだろう。
命令を拒否することもまた、正義なのだろうか――。
その考察は、もし許されるのであれば、ぜひさらに考察を深めたいと思います。
あずきとそらとしての後書き
クロニカとエレノアが席を後にして、僕は再びタブレットを立ち上げる。
正義を叙任する者の正統性。
正義を行使した者の結果責任。
そして、その正義を拒否する良心。
この三つは、まだ同じ問いではない。
本稿では「署名」というところまで辿り着いた。だが、それでもエレノアの問い――「叙任する側の正義は、誰が保証するのか」――には、まだ答え切れていない。
だから、この問いは残しておこうと思う。
叙任された正義が誤っていたとき、私たちは署名を拒めるのか。
そして、その拒否にすら責任が生じるとすれば、私たちは何を根拠として選ぶのだろう――。
この文章のそばに、灯りを。
名前も言葉もいりません。もう一度押すと取り消せます。


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